旅の途中にちょっと一息つける峠の茶屋のようなWEBマガジン

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ドラブっくchaya

第11号 運転上手と言わせたい

  • 第11号(2013年8月発行)
  • 運転上手と言わせたい
  • 運転「上手い人」と「そうでない人」の分かれ道チェック!
  • 運転が上手いということ
  • ペーパードライバーからの<br />脱出、なるか?
  • いろんな乗り物の「運転」を取材して
  • 女子会大放談「しょっぱいドライバー撲滅宣言」
  • 潜入!高速道路のヒミツ
  • 遊牧運転もラクじゃない
  • プロジェクトメンバーレポート
  • Chayaだより
  • Chaya川柳 Chaya川柳募集中!今回のお題は「夏バテ」
  • BACK NUMBER 過去のChayaはこちら
  • 次回は9月20日更新 Chaya川柳優秀作品を発表お楽しみに!
  • 編集趣意

運転が上手いということ

車好き編集者、『Meets Regional』元編集長・江 弘毅と『ぴあ』元副編集長・石原 卓が、免許取り立てで運転がしたくてしょうがなかった学生時代を懐かしんで、「運転が上手いということ」を語りました。

駐車場バイトで学んだ数センチの美学

サーフィン・ドライブで知った「快適な運転」

駐車場バイトで学んだ数センチの美学 文/石原 卓(編集プロデューサー)

“詰められるだけ詰める”駐車場の極意

 もう二十年前にはなる大学生の頃、とある地方都市の比較的規模の大きな駐車場でアルバイトをしていた。昨今のようにタワー型のものではなく、平地にどんどん車を並べて行くような、いわゆるモータープールと呼ばれた駐車場である。オーナーだったのか何だったのか、シャチョーとみんなに呼ばれているオッサン、そして何を聞いても応えてくれる頼りになるが寡黙そのものといった風情の主任と呼ばれる三十路系のお兄さん、たまに売上げの回収や人員不足の時には手伝いに来るシャチョーの奥さんと思しきおばさん、そこに学生のアルバイトが数名いた。
 最初は大声で「キーはそのままで降りて下さい。後はやっときます」と威勢良く声をかける役目が数ヶ月。次にトライするのは配車である。
 「このベンツ、多分日帰り出張だから夜まで出ないな」とか「このBMVはすぐ出るぞ」などと、その主任の采配でアルバイトたちが黙々と車を移動するのだ。詰めれば詰めるほど、多くの車を収容出来るわけで、シャチョーは「もっと詰めろよ!」と涼しそうなプレハブ小屋から恐そうな視線をアルバイトに浴びせかけるのだ。われわれアルバイトは、主任の的確な指示のもと、ポルシェであろうがランボルギーニであろうが、バンパーとバンパーの間隔を数センチ、目標としては数ミリで詰めて行くのである。

まずは車幅感覚を身に付ける

 当時の車はユニバーサルデザインなどという概念もなく、まさに百花繚乱。イグニッションの場所や方法、サイドブレーキの解除の方法など千差万別であった。フェラーリやランボルギーニなどは製造年によって全く違っていて、その都度それらの機能を確認し、身体に覚え込ませて行く日々であった。
 普通の大衆車であれば、数をこなせばある程度の車幅感覚は誰でも養える。だがたまに見た事もない車種に遭遇して戸惑っていると、「おい! わからなかったら外に出て車全体を見てみろ」と主任の冷静なアドバイスが飛んだ。
 教習所時代にクランクや縦列駐車で教官に指示されたのと同じだった。そうして基礎的な車幅感覚が身に付いてしまえば、後はフェンダーミラーやダッシュボードの端っこなどと、窓外の目標物を見ているだけで車のどの位置がどこに向かうかというのがわかってくる。
 ある時、さる高級車を後ろの車に接触させてしまった。主任に報告すると、丹念に二台の車を点検した上でシャチョーの居るプレハブ小屋に向かった。あ~、クビだなぁ…と思っていたらシャチョーがこちらに向かって来る。
 「ははは、当たったか。でもな、車ってけっこう柔らかいんだよ」とニコニコしながら話かけて来た。要するに車とは実は柔軟性があるという事を切々と語り始めたのである。ただし条件があって、スピードメーターも動かないくらいの速度であれば、例え接触をしたとしても絶対に損傷を与えることはないとシャチョーは言うのだ。
 車を運転して今年で26年目を迎える。今でもあのアルバイトでのシャチョーと主任の事を思い出す。「迷ったら車の外に出て、よーく車の周りを見るんだ」とか「ゆっくり当たるつもりでひっつけて行け」など、けっこう乱暴な教え方をされたもんだと思う。

「車は案外柔らかい」忘れられないシャチョーの言葉

 運転技術は、生まれつきのセンスとか才能では決してない。こうした日々の地道な修練が数センチ、数ミリの美学を生んだと今では思うに至るのである。「車が接触しないと、当たる感覚がわからんだろ」と主任にはよく言われた言葉だ。
 今でも街の駐車場に行くと、車幅ギリギリとかバンパーすれすれという状況が訪れると妙に燃えて来る。絶対に入ると思わなかったと周囲の人に言われる状況で、停車位置にぴったり付けるというのが快感になってしまった。さすがに当てて限界を知るなんて事はもう出来なくなったが、今でも"車は柔らかいもの"という意識は強くある。あの頃シャチョーと主任に教えられた目視と超低速というのが、このアルバイト時代に培った運転の極意だ。新車に乗り換えるたびに、とりあえず広い敷地に車を停めて、周囲をぐるぐると何度も眺め回すのが習性になってしまった。

 最近、その駐車場があった街へ行った。数ミリを競っていたあの場所の前を通ったら、大きなマンションになっていて、その横にタワーパーキングが併設されていた。そのシャチョーがまだ経営しているのかどうかわからないが、もはや目視や車幅感覚なんかが必要のない完全オートメーションの駐車場となってしまっていて少し悲しかったのを最後に付け加えておく。

プロフィール 文 石原 卓(いしはら・まこと)1963年生まれ。雑誌『ぴあ』副編集長、MOOK誌の編集長を経て1997年クエストルーム設立。編集者としての顔の他に、テレビやラジオ出演などメディアで活躍。趣味はマジック。大学生の時に免許を取得して以来、外車なども乗っていたが、現在は「燃費がいいのが一番」とプリウスに落ち着く。

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